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日本版司法取引制度が企業に与える影響について

平成30年6月1日、日本版司法取引制度として『証拠収集等の協力及び訴追に関する合意制度』が導入されました。

この司法取引制度は、特定の犯罪(一定の組織的犯罪や財政経済犯罪)について、検察官と被疑者・被告人との間で、弁護人の同意があることを条件として、被疑者・被告人が他人の刑事事件の解明に協力するのと引き換えに、検察官が被疑者・被告人の事件について有利な取扱い(裁判の回避、軽い刑罰を求める、簡略な手続きによる裁判を求める等)をすることを合意する制度です。

この制度は、組織的な犯罪等における首謀者の関与状況を含めた事案の全容解明に役立つ証拠を獲得することを目的としており、一定の財政経済犯罪も対象とされていることから、企業活動にも大きな影響を与えるものです。たとえば、犯罪の実行犯である従業員が、処罰を免れるなど有利な取扱いを受けようと考え、司法取引制度を利用し、企業の役員等の上位者の関与について供述をし、それを裏付ける証拠を提出するという事態が想定されます。

このように、司法取引制度が導入されることにより、不正に関与した役職員には、処罰を免れるなどの有利な取扱いを受けようとするインセンティブが働き、その結果、不正が内部から発覚しやすくなると考えられます。他方で、虚偽の供述により冤罪が生じるリスクも包含しているため、その運用は慎重になされなければなりません。

いずれにせよ、企業としては、ますますコンプライアンスに力を入れ、そもそも不正が行われないような仕組みを整え、仮に不正が行われた場合には速やかにこれを探知することのできる体制を整備・強化することが、ますます重要になるでしょう。

文責:弁護士 伊佐香菜子