民事訴訟のIT化について
これまで民事訴訟を提起するときは、印刷した紙の訴状を裁判所に提出し、民事裁判で準備書面(当事者の主張を記載した書面)や証拠を裁判所に提出するときには、印刷した紙をFAXや郵送で裁判所に提出する方法で民事訴訟が運用されてきました。
令和8年5月21日から改正民事訴訟法が施行され、弁護士は「mints(ミンツ)」という裁判所のシステムを利用して電子で訴状の提出を行うことが義務化され、民事裁判での書面や証拠の提出もmintsを利用して電子で提出する運用に完全に移行しました。
※弁護士でない人が自分で訴訟提起をする場合や、弁護士であっても令和8年5月21日以前に訴訟提起しているものについてはこの限りではありません。
改正民事訴訟法による民事訴訟のデジタル化でこれまでの運用が大きく変わりましたが、私が個人的に重要だと感じたのは下記の2点です。
①電磁的記録の取調べ
これまでは、民事裁判で書類を証拠として提出する場合には「書証」として提出することとされていました。書証は写しで提出することも可能ですが、書面の署名・押印部分などの書面自体の成立の真正に関わるものや、その文書が偽造の疑いがあるなど、原本を確認する必要性のある書証については、原本として取調べを行っていました。
改正民訴法では、文書の提出方法として、書証としての方法に加えて、mintsにより電磁的記録そのものを提出する「電証」による方法が追加されました。
電証については、立案担当者によれば、書証のような原本と写しに相当する区別は想定されていないとされていますが、mintsにより提出された電磁的記録の複製ファイルの形式と電証の取調べの対象となる電磁的記録のファイル形式が一致しない場合(mintsにより提出できるファイル形式が一定のものに限定されているためmints提出のファイル形式と一致しないことがあります。)には、mintsでの提出とは別に、複製の元となった電磁的記録を提出する必要があり、改正前の書証の原本と写しの扱いに似た取り扱いが想定されます。
証拠調べの対象となる電磁的記録とその複製のファイル形式が一致しない場合においては、訴訟代理人としては、ファイル形式の一致しない証拠を提出する当事者の場合と、提出される相手方の場合とで、以下の点の対応が重要になると考えます。
ファイル形式の一致しない証拠を提出する場合、当該証拠を提出した訴訟代理人は、提出した電磁的記録を表示できるアプリケーション等をインストールしたPCを準備して、WEB開催の裁判ではTeamsの画面共有により裁判官に閲読させる必要があります。
ファイル形式の一致しない証拠を提出される相手方の場合、書証における原本確認の時と同様に、元データが偽造や改変により生じたものでないかを確認する必要があり、そのために、メタデータ(データに関するデータのこと。例えば、PDFファイルであれば作成者や作成日時などのプロパティ情報など。)等を丹念に確認する必要があると考えます。
②ウェブ尋問
従来は、一定の要件を充足する場合には、証人は、受訴裁判所(訴訟提起を受け付けた裁判所)又は尋問に必要な装置の設置された他の裁判所において、テレビ会議システム等を利用した尋問が認められていました。
改正民訴法下では、裁判所が導入するウェブ会議システムであるTeamsを利用したウェブ尋問が認められ、従来のテレビ会議システム等を利用した尋問よりも実施要件が緩和されました。また、証人がウェブ参加できる場所は「裁判所が相当と認める場所」(改正民事訴訟規則123条1項各号の要件を満たす必要もあります。)に拡大されました。
もっとも、ウェブ尋問の場合に、証人が手元のメモを閲覧するなど何らかの不正な方法により証言することを完全に防止することが困難であること(証人尋問では証人はメモを見て証言することは許されません。)、証人尋問においては証言内容のみならず、その表情、声、動作や態度等についても信用性判断の要素となるところ、ウェブの場合に裁判官がこれを適切に把握できるか疑問があること等から、証人の証言の信用性がまさに問題となる事案においては、積極的に利用されることは少ないのではないかと考えます。
一方、中立かつ公正な証言を期待できる専門家証人(大学の教授など)については、これまでは証人が遠隔地に所在していたり、多忙であって尋問のスケジュールに合わせることが困難であるなどの理由により出頭が困難なケースが多くありましたが、今後はウェブ尋問が積極的に活用されることが見込まれます。
ウェブ尋問を実施する場合、証人に書面等を示して尋問をする際には、Teamsの画面共有機能を利用して提示して、証人にウェブ上の電磁的記録に書込みを行わせるなど、これまでの対面尋問とは違った立ち回りをしなければなりません。ウェブ尋問を導入するにあたって実証実験を行った裁判官からは、裁判所のシステムやTeamsの操作に相当習熟しなければ証拠等を表示して画面共有をするプロセスには一定の時間を要することが指摘されています。訴訟代理人としては、尋問の流れを止めることのないように、また、時間内に必要な尋問を終えられるように、これらのシステムにも順応することが求められると考えます。
このように裁判のシステム自体のIT化が進んでいる上、AIの発達も相まって社会において生じる紛争自体が急速にIT化している以上、弁護士もこれらの案件に対応できるようなスキルが求められています。われわれ弁護士も法的知識だけでなく、これらのスキルについても研鑽を積む重要性を感じています。