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共同親権制度の導入について

共同親権制度の導入について~民法改正~

 

令和6年5月17日、離婚後も両親双方が子どもの親権を持つことを認める「共同親権」制度の導入を柱とした改正民法が参議院本会議において賛成多数で可決・成立し、2年後の令和8年5月から「共同親権」を認める新制度が施行される予定です。

離婚後の親権制度の見直しは、77年ぶりの出来事です。

 

現行の民法においては、離婚後は、父母どちらか一方を親権者にする「単独親権」を規定しており(民法第818条第1項、第3項、第819条第1項)、親権者は、子の監護及び教育に関する親の権利義務(身上監護権)と子の財産管理や法定代理に関する権利義務(財産管理権)を有することされております。

 

単独親権制度においては、離婚後の親権者は父母のいずれかに指定されるため、特に離婚後に父母間で良好な関係を築けていないケースでは、親権を持たない親と子どもとの関わり合いが不十分なものとなることが少なくなく 、子の福祉の観点から望ましくない状態が生じておりました。

 

「共同親権」を認める今般の改正では、離婚時に父母が協議して共同親権か単独親権かを選ぶことができるとされており(改正民法819条1項)、父母において協議で折り合いがつかない場合には、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が共同親権とするか、単独親権とするかを判断するとされております(同条7項前段)。もっとも、子どもへの虐待があるなどの「子どもの利益」を害すると認められるときには、家庭裁判所が単独親権としなければならないとされております(同条項後段)。

 

共同親権とされた場合には、例えば、受験や転校、手術、パスポートの取得などにおいて父母双方の合意が必要になり、双方の意見が対立した場合はその都度、家庭裁判所において親権を行使できる人が判断されます。

また、緊急手術やDVからの避難といった「急迫の事情」や日々の食事などの日常的行為は一方の親が判断できるとされております。

 

共同親権制度導入に際しては、離婚の原因が一方配偶者の暴力やモラルハラスメントなどにある場合、共同親権では離婚した相手から逃れにくくなるのではないかという問題点があることからこれに反対される意見も少なくありませんでした。また、単独親権と共同親権のいずれが適切であるかを家庭裁判所において判断できるものなのかという問題点も家庭裁判所のマンパワー不足の問題と併せて指摘されているところです。

一方で、現行の単独親権制度においては、暴力や虐待がないのに離婚後面会交流が全くなされないか、著しく不十分であり、事実上、親権を有しない親と子が引き離されるケース少なからずありました。とりわけ、日本の裁判実務においては、親権者を決める判断基準には『継続性の原則』(子どもを実際に監護している親を親権者に指定する重要な要素とする考え方)があり、実際に子どもを監護している側が親権者争いで有利に判断される傾向があり、離婚するかもしれないという雰囲気になると、子どもを連れて出ていくというケースが多いという問題も 生じておりました。

 

共同親権制度に関しては、上記のとおり、これに反対する立場から問題点が挙げられており、実務運用上の課題は多くありますが、77年間もの長年に亘って改正がなされることがなく、特に日本の裁判実務において、子の連れ去りの問題も相まって、親権者に指定されなかった非監護親と子との交流が合理的な理由がなく断絶される事案が少なくなかったため、本制度の導入によって、このようなケースが減少し、離婚後においても、両親が、協力して、子の福祉の観点からより望ましい形で養育に携わっていくことが期待されます。

我々弁護士としても、令和8年5月から開始される共同親権制度の下において、本制度の問題点とされている点を念頭におきながら、制度の適切な運用がなされ、子の利益を害するような事情がない限り、離婚後に子と同居していない非監護親と子の交流がこれまで以上に充実したものとされるように努めていく所存であります。

 

夫婦間の離婚後においても、子どもにとっては、両親ともにかけがえのない存在です。子の利益を害するというような事情がない限りにおいては、子どもの健全な発達・成長のために 、夫婦間の離婚後においても、両親が当然に養育に関わるという社会通念が形成されていくべきであると考えております。

 

弁 護 士  坂  田   優