法定養育費制度について
令和6年5月の民法改正により「法定養育費制度」が新設され、1年後である令和8年5月までに施行される予定です。
養育費とは、未成熟子(現行法下においては成人年齢が18歳とされておりますが、実務上原則として20歳まで未成熟子であると考えられております)が経済的・社会的に自立するまでの間に要する生活費用のことをいい、民法766条1項によって規定されている「子の監護に要する費用の分担」が法律上の根拠であると考えられております。
現行法下においても、養育費は、夫婦間の離婚後に、監護親(子を監護する親)が非監護親(子を監護していない親)に対して請求できる当然の権利として認められているものでありますが、養育費に関する父母間の協議がまとまらない場合には、家庭裁判所による裁判手続(調停や審判等)により養育費の金額を決めなければ、養育費の権利行使を実現することができませんでした。令和3年度における養育費の取り決めをしていない家庭の割合は、母子家庭では51.2%、父子家庭では69.0%であり(厚生労働省:令和3年度全国一人親世帯等調査報告書)、その理由は、離婚時あるいは離婚後に元配偶者に養育費を請求しても拒絶され、建設的な協議をすることができない、そもそも元配偶者に連絡を取ること自体憚られる、そのような場合に裁判手続を取ることもハードルを感じるなど考えられるところですが、いずれにしても、子どもの生活の安定や健全な成長に不可欠である養育費を受け取っていないケースが多いという実情が存在しました。
法定養育費制度は、こうした背景を基に導入されるものであり、離婚のときに養育費の取決めをしていなくても、離婚のときから引き続きこどもの監護を主として行う父母は、他方に対して、法務省令で定められる一定額の「法定養育費」を請求することができることとされます。もっとも、法定養育費は、あくまでも養育費の取決めをするまでの暫定的・補充的なものと考えられておりますので、実態に即した適正な養育費の金額を決めるために、これまでどおり、家庭裁判所における調停・審判手続きが必要になるでしょう。
また、本制度においては、離婚のときから養育費を請求できることとされておりますが、現在の実務においては、養育費請求の始期が原則として養育費の調停・審判の申立時とされておりますので、その点も大きな変更になるものと考えられます。
我々弁護士としては、子どもの生活の安定や健全な成長に不可欠である養育費という重要な権利がすべからく実現されるように新制度導入後においても適切な法的サポートをできるように努力していく所存であります。
弁護士 坂田 優