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取調べへの弁護人立会の必要性

近年、捜査機関が被疑者に対し違法な取り調べを行ったと認定された判決がいくつか下されています。これらの事例から明らかであるとおり、捜査機関による捜査においては、違法・不当な取調べがなされることがあり、取調べへの弁護人立会の必要性を強く感じています。

現在、我が国では、基本的に取調べへの弁護人立会は認められておらず、弁護人が立会いを求めても捜査機関に拒否されるのが通例です。弁護人立会が必要な理由は様々ありますが、究極的には冤罪の発生を防止するための一言に尽きるのではないかと思います。

取調べをした後には本人の話したことを捜査機関が取りまとめた供述調書が作成され、裁判での(あるいは起訴・不起訴にあたっての)証拠となります。この供述調書は、捜査機関というフィルターを通して作成されるため、被疑者の話したとおりには作成されません。特に、犯罪の故意(自分の行為が犯罪事実に該当する行為であることの認識をいい、これが無いと犯罪が成立しない)が問題となるような事案では、被疑者が故意はなかったと捜査官に伝えていても、調書には何らかの形で未必的な故意を認めるような記載がされることも少なくありません。例えば、被疑者がある人物の身分証を確認したかどうかが問題となる場合に、被疑者が確認をしたと述べていても、調書には「確認していない可能性も否定できません。」と記載されたりすることがあります。被疑者がこの点について、このようなことは言っていないと異議を述べても、捜査官はたくさんの取調べを経験してきたプロですので捜査官に丸め込まれて調書に署名させられてしまいます。裁判になって証拠開示がされ、本人の話していることと異なる供述調書が出てきて驚くという経験は、多くの刑事弁護人が経験しているのではないでしょうか。

また、身体拘束されて誰とも会えない状況のなか、密室で捜査機関による取調べがなされること自体、誤った供述が誘発される環境にあると考えられます。国家賠償請求訴訟で検察官の取調べの違法性が肯定されたプレサンス元社長冤罪事件では、検察官が机を叩いて「検察なめんなよ。」「小学生だってわかってる、幼稚園児だってわかってる。あなたそんなこともわかってないでしょ」「あなたは大罪人」などと恫喝するような取調べをしていることが明らかになりました。この事案は、取調べの録音・録画対象事件であり、実際の取調べ状況の録音・録画が残っています。録音・録画されている事件ですらこのように不当な取調べがなされていることからすれば、録音・録画されない事件でも少なくとも上記のような取調べがなされているものと推察されます。

取調べの弁護人立会を否定する最大の反論根拠は、それによって真実発見ができなくなるということのようですが、弁護人が立ち会わない取調べには上述したように本人の真意や認識と異なった供述調書が作成される危険があり、かえって真実発見の要請に反する事態を招来しかねません。諸外国が弁護人立会を導入した背景には、弁護人を排除した場で被疑者の供述を得て事案を解明するというやり方は危険であるとの認識があります。

日本においても、自白偏重の捜査手法を止め、冤罪を防ぐ観点から、取調べへの弁護人立会を認める必要があると考えます。

文責 弁護士 伊 江 優 太